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シリーズ-東北大学を訪ねて 第4回(最終回) 時が過ぎても残るもの

2012. 11. 26
文:菅野康太

 

2011年サイエンスイラストレーションサマースクールも最終日、各受講生の作品の講評が行われた。

 

[講評をする奈良島さんとDavidさん(左奥)、それを見守る長神さん(手前)]

 

かなりのレベルに仕上がっているが、さすがに期間が短いため、細部までは完成しなかった作品も多い。2010年に続き、2011年のサマースクール終了後も、奈良島さんは受講生に対し、メールを通して作品のブラッシュアップの指導を今なお続けている。そして、それらの作品は、2010年と2011年のサイエンスアゴラで展示されている。サマースクールが終ってもなお、ここに集まった人々のコミュニティは続いているのだ。

 

[サイエンスアゴラの会場、日本科学未来館で展示される受講生の作品を眺める奈良島さん
(写真: 川口氏(グエル)提供)]

 

さて、サイエンスイラストレーションサマースクール2011が終った数日後。確か、震災の影響で開催が夏に延びた、ARABAKI Rock Fesの次の日だ。私と長神さん、栗木さんは、せんだいメディアテークにて、とある方々と科学とか芸術とか、その他諸々が絡んだ活動とか、これからの日本のコミュニティとか、大学とか、双方向性のあり方とか、そういったことについて、ランチをしながら話すことになる。特に、何かを生み出す、次に繋がる活動、コミュニティとは、何なのかについて。また、それに必要な仕組みや仕掛けとは何か。

そこで、物事を伝える際には、その歴史性やコンテクストまで含めた伝達が重要だろう、というようなことを話したりなどした。そのことについて、また後日、サイエンスイラストレーションサマースクールを振り返りながら、長神さんがメールをくれた。以下は、その一部だ。

 

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歴史性は多分、コンテクストの一つなのだと思っています。「解体新書」は、すべての歴史の教科書、しかも、中学レベルにありますから、多くの人が知っています。「あの教科書で習ったアレか」は、一見、それだけでも強力なコンテクストですが、そこからどこまで、どんなところまで人をいざなえるか、は、相当に考え抜かないといけない。僕は今回、そこまで行けていない。

いくつもの補助線をひいて、その補助線が交わるところに、何らかの核心を配置すること。補助線の種類ごとに小さなコミュニティを考えること。Content, Context, Community3つのCが揃って、4つ目のCCommunicationが成立しますが、そして、共時性のあるイベントならば、その時に、5つ目のCcompassionが生じることがある。そうすると最早、イベントの中、そのもので、会場と意見交換していようがいまいが、ほとんど関係なくなって、仕組みとしての双方向性とか、どうでもよくなるんだと思います。多分、イベントの双方向性って、むしろ、イベントにきた人たちっていうかりそめの集合体を、その場限りのCommunityに変えるための装置の一つなんだと最近は、思っています。イラストレーションスクールの最後に、みんな帰ろうとせず、勝手にそこかしこで話し合っていたのを見たと思います。去年もそうでした。5つのC全部が、その中では成立していたからです。そして、それは脱落者はかなり出ますが、1年2年という単位で続くCommunityになってしまいます。
そのうち、こういうこと、まとめて書かないと、と思っています。
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2012年現在、長神さんは震災後に新たに発足し、未来型地域医療モデル体制の確立を目指す「東北メディカル・メガバンク機構」の広報も兼務している。

東北メディカル・メガバンク機構 http://www.megabank.tohoku.ac.jp/

このメールをくれた1年後、長神さんはどうしているだろうか。
2012年のサマースクールに合わせて、私は再び仙台を訪れた。

サイエンスイラストレーションサマースクールin Sendai 2012 詳細
http://www.med.tohoku.ac.jp/index.php/article/show/id/1512

 

今では、以前受講生だった人がボランティアスタッフとしてサポートに回るなど、3年目を迎えてこのサマースクールが定着してきたように思える。大学の組織が変化してもなお、サマースクールを開催・運営し、無事終了した長神さんにこれまでを振り返ってもらった。以下、その長神さんの言葉で、本連載を締めくくりたいと思う。

 

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「3年目を終えた後に思うこと」

1年目2年目、アンケートを取りました。5段階評価で、このスクールの有用性を評価してもらいました。匿名だったのに、全員が5(最高評価)をつけました。通常、起こらないことです。
3年目、いろいろなことが重なり、開催決定が遅れに遅れました。初年度と比べたら、1か月半くらい遅いアナウンスになりました。けれど蓋を開けてみれば、定員を満たす応募を頂きました。
高評価、成功として語っていいのかも知れません。実際そうなのでしょう。でも、多分、同時にそれは陥穽のような気がします。
今年、このスクールに参加してくれた人は、申し込み時のアンケートによると、学内のポスターや通知から知り、前の受講生から知り、国内のサイエンスイラストレーターのツイートから知りました。広がってはいないのです。前年などの遺産のおかげで、情報の到達範囲を狭めても、それが結果になって跳ね返っていないだけ、と心すべきでしょう。逆に、これに胡坐をかけば、狭いコミュニティで閉じてやっているという印象を与えかねません。
サマースクールも、それこそ、サイエンスイラストレーションそのものも、核心になる何かのための、道程、あるいは道具と位置付けて、次のステップへ進むこと。続けることでコミュニティを強く多様にしながらも、別の続け方、も同時に模索し、更に、同じ核心に至る別のラインもひきつづけることを試みること。今、自分の中でまだもやもやとしていることを、何とか、形にして、多くの人たちに示していかないと、と思っています。
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第1回 第2回 第3回

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