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『WIRED』vol.4 特集「The Biology Bigbang! WIREDの未来生物学講座」

WIRED VOL. 4
Creatures: PELOQOON
Photo: JUNPEI KATO
Courtesy of WIRED.jp
(C)2012 CONDÉ NAST JAPAN. All rights reserved.

 

2012年5月10日刊行の日本版『WIRED』vol. 4 は、28ページにわたって生物学特集を組んだ。その名も、「The Biology Bigbang! WIREDの未来生物学講座」。ここで「生命科学」(ライフサイエンス)とせず、あえて「生物学」と言い切ったところに、監修を務めた佐々木浩氏の、研究者としてのこだわりが感じられる。たとえば扉をめくっていきなり登場するのは、「ノンコーディングRNA」である。普通、順序から言えば、DNAを冒頭に持ってくるのが一般的である。RNAは、遺伝情報の物質的本体と考えられるDNAと、その産物であり生命活動の実効的機能を担うタンパク質の中継ぎ役であり、あくまで中間体として「2番目」に説明されるにとどまることが多いからだ。まして、ノンコーディングRNAは「タンパク質を作らない」RNAで、役割が未知であった。しかし、実はこのノンコーディングRNAは、遺伝情報の使われ方に、相当程度関与しているだろうことが、近年明らかとなり、生命現象の新たな原理が提唱されている。このことが、様々な病気への新たな治療戦略も切り開きつつある。ライフサイエンスと言った方が、技術的にも先進的で、応用可能性も見据えた「役に立つ科学」の響きがあり、興味も持たれやすいが、生命の起源から医療戦略までを巻き込む最先端のRNAの話題を冒頭に据えることで、より広範な話題である生物学を読者に印象づけられたのではないだろうか。また、この先端トピックを扱ったことが、DNAを2番目に持ってくるという編集的な意味での斬新さをももたらしている。

ほかにも倫理的・政治的な話題など、これからの生物学の話題を10のレッスンに分けて幅広く紹介している。こうした手堅く目配りのきいた内容が、WIREDの編集によって目に飛び込んでくる。また、随所にバイオベンチャーやそれを支えるシリコンバレーとベンチャーキャピタルの話が織り交ぜられる構成は、日本における現在の科学に足りないものを、我々に教えてくれる。この点も、テクノジャーナリズムを掲げるWIREDならではの編集ではないだろうか。

ただ、個々のテーマについては短い文章での簡単な紹介にとどまっているため、物足りなく感じるかもしれない。今回の特集を導入として、今後の誌面やウェブサイトでそれぞれの話題を掘り下げる記事とともに、佐々木氏が今回の特集で語りきれなかったことを十分な分量で執筆したものを、期待したい。

なお,刊行に合わせて,佐々木氏と編集の若林恵氏による J-WAVE の番組(5月16日、 http://www.ustream.tv/recorded/22624640 )やトークイベント(6月28日、 http://wired.jp/2012/08/01/utokyo-event-report/ )、さらには日本科学未来館とのコラボレーションによる子どもたちとのイベント「WIRED KIDS」(8月25日、http://wired.jp/2012/09/07/wired-kids-biology/)の内容がそれぞれのリンク先で公開されている。これもWIREDならではだが、ほかの媒体でも見習えるものだと思う。

住田朋久(科学史)

東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻

 

 

 

 

 

 

 

 

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Creatures: PELOQOON
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